E24 · B
大海原の歌
耳をかたむけてくださるあなたへ
夕暮れ、甲板で誰かがそっと歌い出しました。はじめは一人か二人の声でしたが、やがて船じゅうが聴き入っています。
この手紙は、1991年2月から3月にかけて、外洋の客船の上で書かれました。封筒は温かいクリーム色。題字は、ゆっくり引かれた波のような、長く流れる筆文字。青い版画の客船のシルエットの下には、水平の波の連なり。五線譜の刷られた薄紫のプログラムの半券、珊瑚色の夕日のメダル、そして航海用の真鍮の罫線のような細い線。
ある詩人は、こんな時のために書いています。「深い海のほとり、誰にも邪魔されない交わりがあり、その轟きのなかに音楽がある。」——ジョージ・ゴードン・バイロン『チャイルド・ハロルドの巡礼』(1818年)
だから、たくさん話さなくても大丈夫。聴いているだけで十分です。海は、楽譜も終止線もない、いちばん長い歌を歌っています。ようこそ。答えたくなったら、手紙を一通。歌が伴奏をつけてくれます。
潮風がハーモニーをつけますように
暴雨郵便局
1991年2〜3月・海上