M10 · A
取り戻された楽園
氷原の縁に立つあなたへ
暴雨郵便局へようこそ。この手紙は1991年3月の南極から届きました。短い夏が終わりかけ、太陽は日ごとに尾根へ低く寄り添っています。封筒は氷のように白く丈夫な紙。海の青の太い書体の題字は、風に吹かれて斜体の尾を引き、紺色の等高線が海岸をなぞり、銀色の氷の版画のあいだに黄土色の物資ラベルが並び、隅には銅色に灯る野営地の窓がひとつあります。
長い詩のなかで楽園を失った詩人は、もっと短い詩でそれを取り戻そうとしました。その冒頭の一文の結びは、こうです。「……そして、荒涼たる原野に築かれたエデンを。」——ジョン・ミルトン『復楽園』(1671年)
楽園は大きくなくてもいいのです。ランプとストーブと、ちょうど沸いたやかん。それで足ります。入って手を温めてください。ゆっくり書けば、雪が預かっておきます。
やかんのお湯が冷めませんように
暴雨郵便局
1991年3月・南極